高低差のある土地にある擁壁
高台に位置する土地は、その高低差から見晴らしが良く、風通しが良いという利点があります。
ただし、これに加えて、高低差のある土地を購入したり、その土地に建てられた住宅の建て替えやリフォームを行う際には、最初に「擁壁」について詳しくチェックする必要があります。
擁壁とは、簡単に言うと、「崖や盛土の崩壊を防ぐための壁」です。
一般的にはコンクリートや石材で造られており、特に街中の高台に建てられた住宅の下などでよく見られます。
擁壁にもさまざまな種類があり、例えば、切り立った崖を覆う高い擁壁が設置されるケースや、人間の背丈くらいの高さ(2m以下)の擁壁が設置されるケースがあります。
擁壁の設置は建築基準法や地方自治体の条例で義務付けられており、規定内容は自治体によって異なるため、事前に市役所などで確認することが必要です。
擁壁とは?
擁壁とは、高低差のある地形で側面の土地が崩れるのを防ぐために設置された壁状の構造物を指します。
高台や丘に位置する住宅地などでは、土地間の高低差が大きくなり、土地が安定する最大の角度を超えてしまうことがあります。
これによって、土地や建物が雨水の水圧や建物の重みで崩れ落ちてしまう危険性があります。
そこで、強固なコンクリートなどでできた擁壁が設置され、崩壊を防ぎ、建物を保護する重要な役割を果たします。
擁壁の設置や斜面地、崖地の管理には、高額なコストやリスクが伴う場合があります。
物件を購入する際には、擁壁に関する法律である「宅地造成等規制法」の内容を理解しておくことが重要です。
この法律は、1962年に災害を防止するために制定されたもので、崖崩れや土砂流出を防止することを目的としています。
宅地造成等規制法では、崖崩れの危険が高い地域を規制区域として指定し、その地域内での宅地造成に対して厳しい規制が行われます。
設置工事に着手する前に許可を取得する必要があり、設計基準を満たしていない擁壁は建設することができません。
規定に適合すれば、工事完了後には「検査済証」が交付されます。
また、擁壁を所有する地主は、擁壁の維持管理が求められ、怠ると改善勧告や改善命令を受ける可能性もあります。
擁壁の種類
様々な工法や材料を使って作られることがある擁壁は、その種類が豊富です。
今回は、住宅地などでよく見られる擁壁に焦点を当ててご紹介します。
鉄筋コンクリート擁壁
「鉄筋コンクリート擁壁」とは、現在の建築物や土木工学の分野において、最もよく採用されている擁壁の一つです。
この種の擁壁は、その名の通り鉄筋とコンクリートでできており、そのため非常に高い強度を持っています。
そのため、地震などの外部からの力に対して非常に耐久性があります。
また、この鉄筋コンクリート擁壁は高い強度を活かして、垂直に設置することができるため、土地を効果的に利用することができるという利点もあります。
鉄筋コンクリート擁壁は大きく分けて、鉄筋を含むコンクリートでできたものと、無筋のコンクリートでできたものという2つのタイプがあります。
この擁壁は、立地条件や斜面の形状、その地域での崩壊のリスクなどに応じて、さまざまな形状の擁壁が建設されます。
逆T型、L型、重量式、もたれ式、片持梁式など、さまざまな形状が存在します。
中でも鉄筋コンクリート擁壁は、L型、逆L型、逆T型など、さらに細かく様々な形状に分類されることがあります。
現在、土地をより広く利用するために、L型の擁壁が一般的に採用されています。
間知ブロック擁壁
「ブロック擁壁」というのは、名前の通り、ブロックを石垣のように積み上げてできる擁壁のことです。
昔は石材のブロックが使われていた時期もありましたが、現在ではコンクリート製の「間知ブロック」が一般的です。
通常のブロックとは異なり、斜めに積み上げられるコンクリート製ブロックで、石垣などでもよく利用されています。
間知ブロック擁壁は、複数のブロックを組み合わせて設置される擁壁のことを指します。
高速道路を走行中にも、山の斜面などでよく見かけることがありますね。
この間知ブロック擁壁は、現行基準を満たしていれば高さ5mまでの擁壁を設置することが可能です。
また、ブロック擁壁の外側からは見えませんが、一定間隔で鉄筋コンクリート造の控え壁が設けられています。
一般的に、高低差の大きい住宅地などに用いられており、壁面が傾いているのが特徴です。
間知ブロック擁壁はデザイン性にも優れており、さまざまな風合いを表現することができるのが利点です。
大谷石積み擁壁
大谷石積み擁壁は、大谷石を積み上げて作られた擁壁のことを指します。
大谷石は、軽石凝灰岩という種類の石で、 比較的加工しやすい石材です。
そのため、昔から外壁や土蔵の建材などに用いられてきました。
しかし、大谷石で作られた構造物は、時間の経過とともに劣化してしまい、安全性が保証できないという判断が下され、 現在では建築基準に適合していないとみなされることが一般的です。
また、玉石を用いた横積み構造の擁壁は、安全性を評価する計算が困難であり、 二段擁壁や二重擁壁についても、現行の建築基準法の枠組みでは認められていませんので、 地方自治体に問い合わせをする必要があります。
さらに、擁壁を造る際には、ブロック塀の使用は禁止されています。
土地の購入時に擁壁工事が必要な可能性もある
家を建てる時、または土地を購入する際には、擁壁工事について注意が必要です。
土地を販売する際に、擁壁の設置が必要となる場合があります。
この場合、追加費用がかかることがあるため、契約をする前に確認しておくことが大切です。
一方、大規模な土地を分譲する場合、擁壁がすでに設置されているか、または擁壁工事の費用が土地代金に含まれている場合もあります。
この点についても、事前に確認しておくことが安心です。
また、隣接する土地間に高低差がある場合、擁壁は上側の土地を使用して建設されることが一般的です。
そのため、上側の土地所有者が擁壁工事の費用を負担することになります。
ただし、地盤調査の結果、下側の土地にも擁壁が必要と判明した場合、費用は下側の土地の所有者が負担することになります。
その他、土地の一部を提供したり、費用を分担するケースもあります。
このような場合には、トラブルを未然に防ぐためにも、詳細な条件を把握しておくことが重要です。
擁壁工事にかかる費用や工期
擁壁工事には様々な要因が影響し、費用もそれに応じて大きく異なります。
擁壁の面積や高さ、敷地の状況、工事の難易度などがその主な要素です。
通常、1平方メートルあたりの費用は3万円から5万円程度と言われていますが、状況によっては1平方メートルあたり10万円を超える場合もあります。
工事の規模によっては、数百万円から数千万円以上かかることもあるので、事前に十分な費用の準備が必要です。
ただし、自治体によっては、一定の条件を満たせば擁壁工事に助成金が支給されることもあります。
時には、不動産会社やハウスメーカーが助成金の申請を手伝ってくれることもありますので、まずは相談してみると良いでしょう。
また、工期について言えば、工事内容によって異なりますが、最低でも2週間から1カ月半くらいはかかると考えておいた方が良いでしょう。
規模の大きな工事になると、3カ月程度かかることもあります。
工期は生活や引っ越しの計画にも影響するので、あらかじめ工程表を確認しておくことが重要です。
高さが2mを超える擁壁の新設には申請が必要
高さ2mを超える擁壁を新たに設置する場合、建築基準法に基づいて「工作物確認申請」の手続きを行う必要があります。
この申請は、自治体からの許可が必要です。
また、一定規模を超える擁壁工事を行う際には、宅地造成等規制法に基づいて「宅地造成の許可」が要求されることもあります。
そのため、慎重に行動することが求められます。
許可が下りるまでには約1カ月の時間がかかることが一般的であり、この期間も計画に組み込むことが肝要です。
擁壁工事を行う予定が決まったら、できるだけ早めに手続きを始めることをおすすめします。
まとめ
擁壁にはいくつかの種類があり、その中には古くて傷んでいたり、現在の建築基準を満たしていないものもあります。
擁壁が崩れて近隣に影響を与えた場合、損害賠償の責任が生じます。
このような状況を避けるためには、建築基準に合わない擁壁や亀裂、ひび割れがある物件を購入することは避けるべきです。
もし購入後に問題が見つかった場合、擁壁の建て替えや修理が必要になり、その費用は高額になることもあります。
物件を購入する際には、擁壁が建築基準に適合しているかどうかを確認し、必要に応じて地盤調査なども行うことが重要です。